寺尾クリニカブログ

2026年9月10日 木曜日

日本においておとなの発達障害が増えた理由

おとなの発達障害が注目され、診断を受ける人が増えた理由には、「当事者の数が増えた」ということではなく、社会環境の変化、医学の進歩、そして診断基準や支援制度の整備といった複数の課題が重なり合っています。

1. 現代の職場環境の高度化
かつては許可されていた特性が、現代の労働環境では「障害」として表面化しています。
高度なシステム化と自己管理:平成時代以降の大幅な情報化により、職場では高度なシステムへの対応、多数の仕事の同時並行、シビアな自己管理が求められるようになりました。

2. 医学の進歩と「変わり者」からの脱却
かつては医学的な診断の対象とならなかった人々が、正しく理解されるようになりました。
概念の変化:以前には「変わり者」などと片付けられていた人々が、医学の進歩により「脳機能の偏り」を持つ発達障害者として認識されるようになりました。

知的障害を伴わない層の認知: 1980年代以降、知的障害のない発達障害(高機能自閉症やアスペルガー症候群など)が社会的に認知され、診断の対象が広がりました。

3. 学生時代との環境のギャップ
学生時代まで​​は隠されていたことが、社会人になって初めて暴露されることなりました。
決められたスケジュールで動く学生時代は、周囲のカバーや本人の学力によって問題が隠れていることがあります。

社会に出ると、自分が他人と比べて違いあることを初めて自覚し、生活上の困難が覚悟します。

4. 診断基準と治療薬の整備
診断基準の普及:国際的な診断基準であるDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)などの普及により、医師が診断を下すための共通の評価が確立されました。

成人向け治療薬の:日本でも2012年以降、ADHD(注意欠如・多動障害)の治療薬(アトモキセチンやメチルフェニデートなど)が18歳以上の成人に対しても認可されたことが、医療機関の受診の動機となりました。

5. 社会的な啓蒙と支援法成立
発達障害者支援法施行: 2005 年の「発達障害者支援法」成立により、それまで支援の谷間に置かれていた人々への法的承認ができました。

メディア等の影響:専門家による啓発書籍出版や、事件・社会問題との関連で発達障害が報道される機会が増え、本人が「自分も今日はどうか」と気づき、自ら医療機関を訪れるケースが増えました。

まとめ
これらの課題が組み合わさることで、潜在的だった「変わり者」が医学の進歩により「脳機能の偏り」を持つ発達障害者として捉えられるようになり、本人が「自分はどうか?」と疑い、自ら医療機関を訪れるケースが増えました。さらに、医学的には医師が診断を下すための共通の評価が確立され、日本でも2012年以降、ADHD(注意欠如・多動障害)の治療薬が成人に対しても認可され、さらに社会的な啓蒙も広がり、医療機関受診の動機となりました。その結果、おとなの発達障害と診断される人が急増していると考えられます。しかし、まだ日本における発達障害者への対応には依然として多く問題があります。


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2026年9月10日 木曜日

酒で亡くなる人はどれくらいいるのか―医師として見てきたアルコールの怖さ

「酒は肝臓に悪い」

これは、多くの人が知っていると思います。

しかし、アルコールが長期間にわたって身体を壊し、最終的には命を奪うことがあることを、どこまで理解しているでしょうか。

WHOによると、2019年には世界で約260万人がアルコールによって死亡したと推計されています。

アルコールによる健康被害は、大きく考えると、

①肝臓の病気
②がん
③その他の病気

に分けて考えることができます。

① 肝臓の病気
長期間の飲酒によって、アルコール性肝障害、アルコール性肝炎、肝硬変、肝不全などを起こすことがあります。

私は現在も、肝硬変の患者さんを何人も外来で診ています。

勤務医のときに、食道静脈瘤が破裂して大量出血を起こし、亡くなった患者さんも何人も経験しています。

肝硬変が進行すると、門脈圧が上昇し、食道などに静脈瘤ができることがあります。

普段は症状がなくても、破裂すると突然、大量に出血して命に関わります。

「酒を飲み過ぎると肝臓が悪くなる」というだけではありません。

その先には、肝硬変、食道静脈瘤破裂、肝不全という命に関わる病気があります。

② がん
アルコールは、さまざまながんとも関係しています。

特に、口腔・咽頭、喉頭、食道、肝臓、すい臓、大腸、乳房などのがんとの関連が知られています。

私はこれまで、食道がんの患者さんも実際に治療してきました。

食道がんでは、飲酒だけでなく喫煙も重なっている患者さんを多く経験しています。

また、肝がんが進行すると、腹水がたまる患者さんも少なくありません。

お腹が大きくなり、食事が取りにくくなったり、息苦しさが出たりすることもあります。

がんになってから治療するのではなく、がんにならないために何ができるかを考えることも大切です。

③ その他の病気
アルコールの影響は、肝臓とがんだけではありません。

高血圧、心臓の病気、脳卒中、膵炎、胃炎、逆流性食道炎、腎臓病、糖尿病、脂質異常症、アルコ-ル依存症、うつ病・不安障害など、おおくの病気に関係します。

つまり、アルコールは一つの臓器だけを傷めるものではありません。

身体全体に長期間の影響を与えるものなのです。

このように、アルコ-ルは全身に悪影響を及ぼし、重篤な疾患に至る可能性があります。外来では脂質異常症の患者さんが多いですが、多くのかたがアルコ-ルを飲んでいます。

アルコ-ルをやめるか、減らすことによりかなりの病気が減り、健康的な生活を送れると考えます。

投稿者 寺尾クリニカ | 記事URL

2026年8月26日 水曜日

胃がんは「予防できるがん」ピロリ菌除菌の大きな意味

日本では、胃がんは年間約10万~12万人が新たに罹患し、年間約4万人が亡くなっている、非常に頻度の高いがんです。

これほど多くの人がかかる胃がんですが、その大きな原因となっているのがヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)感染です。

つまり胃がんは、発症してから治療するだけではなく、発症する前から予防を考えることができるがんなのです。

ピロリ菌除菌には、どんな意味があるのか
ピロリ菌を除菌することで、胃がんの発症リスクを低下させることができます。

文献では、除菌によって胃がんリスクが約34%まで低下したという報告があります。

特に重要なのは、胃粘膜の萎縮などが進行する前、つまりできるだけ若い時期に除菌することです。

胃がんのリスクを高める変化が長年にわたって進行する前に、原因の一つであるピロリ菌を取り除く。

これが胃がん予防の大きなポイントになります。

日本では「除菌」の効果が特に大きい
ピロリ菌除菌の効果を、NNT(1人の胃がんを防ぐために必要な除菌人数)で見ると、日本では非常に興味深い数字があります。

文献によれば、

日本人男性:約15.3人

日本人女性:約23.0人

つまり、15~23人を除菌することで、1人の胃がんを防ぐことができるという計算になります。

胃がんの罹患率が高い日本だからこそ、ピロリ菌除菌による胃がん予防の意義は非常に大きいのです。

これは単なる「感染症の治療」ではありません。

将来のがんを減らすための予防医学なのです。

ただし、除菌すればすべて終わりではない

ここは非常に重要です。

すでに萎縮性胃炎などの胃粘膜の変化が進んでいる場合、ピロリ菌を除菌した後も胃がんのリスクが残ることがあります。

したがって、

「ピロリ菌を除菌したから、もう胃がん検診は必要ない」

ということではありません。

むしろ、

ピロリ菌除菌+定期的な胃の検査

という二段構えが重要です。

除菌によって胃がんになるリスクを下げ、残ったリスクについては定期的な検査で早期発見する。

もし胃がんが見つかったとしても、早期であれば内視鏡治療などで根治できる可能性があります。

がんは「なってから治す」だけではない
私はこれまで、がん患者さんの治療について多くの記事を書いてきました。

しかし、がん医療で本当に大切なのは、治療だけではありません。

「がんにならないようにする」ことも医療です。

胃がんは、そのことを考えるうえで非常に分かりやすいがんです。

ピロリ菌という大きなリスク因子を知り、必要な人は除菌する。

そして、除菌後も定期的に検査を受ける。

胃がんは、発症してから治療するだけではなく、発症する前からリスクを下げることができる。

これこそ、予防医学の大きな意味だと思います。

皆さんも、病気になってから考えるのではなく、病気になる前にできることを考えてください。

予防医学を身につけ、健康に生きていきましょう。

投稿者 寺尾クリニカ | 記事URL

2026年8月 9日 日曜日

結核高蔓延国からの留学生と、置き去りにされた水際対策〜悪いのは学生でも学校でもなく、国の運用の遅れだ〜

私のクリニックには、毎年「結核の疑い」で日本語学校の学生さんがやってきます。今年(2026年)も入国して4カ月ほど経ったミャンマーからの学生さんが受診され、肺結核と診断されそのまま入院治療となりました。
発症日は明らかではありませんが、入国して4カ月の間、結核菌を排菌していた可能性はあります。それまでにどれだけの人と接触したかを考えると、市中感染のリスクに恐ろしさを感じずにはいられません。
しかし、ここで私たちが冷静に直視すべきなのは、「一体誰に責任があるのか」という問題です。

結論から申し上げます。夢や目標を持って日本にやってきた学生さん自身には何も罪はありません。そして、国の制度が機能していない以上、受け入れ側の日本語学校だけに責任を押し付けるのも間違っています。
一番の問題は、「結核高蔓延国からの入国前スクリーニング制度」を掲げながら、運用を遅らせている国の不作為にあります。



数字が示す、日本の結核問題のリアル

現在、世界には約100か国の結核高蔓延国が存在します。日本政府はそのうち、日本での患者発生数が突出している6カ国(フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、中国)を「入国前結核スクリーニング(JPETS)」の優先対象国に指定しました。
実際、厚生労働省の最新データ(2023年 結核登録者情報調査)を見ても、日本で新しく登録された外国生まれの結核患者数は以下の通り、まさにこの6カ国がトップを独占しています。

フィリピン:317人

ベトナム:272人

インドネシア:231人

ネパール:229人

ミャンマー:155人

中国:148人


さらに衝撃的なのは、日本国内における20代の結核患者のうち、実に84.8%が外国生まれという事実です。若者の結核問題は、実質的に「来日した留学生や技能実習生の感染問題」と同義になっています。
なぜ、水際に大きな「穴」が開いているのか
これほど明確な数字と危険性が分かっていながら、なぜ感染が防げないのでしょうか。 それは、国の入国前スクリーニング制度の運用が大幅に遅れているからです
現在、実際に現地でのスクリーニング運用が始まっているのはフィリピン、ネパール、ベトナムにとどまり、インドネシア・ミャンマー・中国に対しては「対象国に指定されながら未開始」のまま放置されています。
つまり、患者数上位に入るミャンマーなどからの渡航者は、入国前に検査を受ける義務すらなく、ノーチェックで日本に入国できてしまうという致命的な抜け穴が、今この瞬間も開いたままなのです。

新宿という街の構造と、現場の危機感

特に私が診療を行う新宿エリアは、これら結核高蔓延国からの日本語学校生が集中的に生活し、アルバイトなどを通じて地域社会と深く接する街です。狭い住環境での共同生活や慣れない生活による免疫力低下も重なり、発病リスクは高まります。
そうした環境で、今回のように「入国から4カ月経ってから判明する」という状態が放置されれば、他の学生も、周りの住民も、そして現場の医療機関も全員が感染リスクに晒される被害者になってしまいます。
早期発見のためには、入国直後や「半年ごと」の胸部レントゲン検査の徹底が不可欠ですが、それ以前に「国が一日も早く、ミャンマーやインドネシア、中国を含む全対象国での入国前スクリーニングを全面稼働させること」が最優先の課題です。

おわりに

臨床の最前線で患者さんを受け止める医師として訴えたいのは、来日した個人を排除したり責め立てたりすることではありません。
行政が自ら定めた制度の遅れを取り戻し、責任を持って水際対策を機能させること。それこそが、夢を持ってやってくる外国人の若者も、地域で暮らす人々も、双方が安心して過ごせる社会をつくる唯一の道です。
国の一刻も早い運用の全面開始と、実効性のある感染対策を強く求めます

投稿者 寺尾クリニカ | 記事URL

2026年8月 2日 日曜日

現代の片頭痛から見る、社会と地球の構造的課題


1. 片頭痛の本質:「命に係わる恐怖」と「放置の危険性」
片頭痛は誰にでも起こりうる身近な病気であるため、世間からは「たかが頭痛」と軽く見られがちです。しかし、激しい痛みに襲われる患者さんにとっては、「脳の重大な病気ではないか」という命の危険を感じるほどの強い不安をもたらす頭の病気です。 これを「いつものこと」と放置すると、脳の過敏化が進んで治りにくい慢性片頭痛へと重症化し、薬物乱用頭痛の悪循環や生活の質の著しい低下を招きます。決して放置してはならない疾患です。

2. 現代の片頭痛は、社会と地球環境に対する「適応障害」
近年の臨床において片頭痛が重症化・慢性化している背景には、個人の生活習慣(食事・睡眠・運動・仕事)の乱れだけでなく、個人では回避できない「社会全体・世界全体の構造的な問題」が深く横たわっています。
• 過度なデジタル化(脳への過剰負荷) 利便性の追求により進められすぎたデジタル化は、人間に「24時間355日、絶え間ない情報処理と視覚刺激」を強いています。人間の生物としての限界や健康を無視し、脳に過剰な適応を要求し続けた結果、脳のキャパシティがオーバーフローし、激しい頭痛という拒絶反応(サイン)となって現れています。
• 進行する地球温暖化(恒常性の破壊) 地球規模の気候変動に伴う、激しい気圧乱高下や極端な寒暖差は、人間の持つ環境適応能力(ホメオスタシス)の許容量を超え、自律神経を疲弊させて発作を誘発しています。

3. 「歴史的教訓」からの逆行と、一部の国際社会への憤り
人類はかつて、経済発展や利便性を最優先した結果として「公害」を引き起こし、多くの尊い命と健康を損なうという大きな過ちを経験しました。そこから猛省し、命と環境を守る大切さを学んだはずでした。 しかし現代は、形を変えた「デジタル公害」「気候公害」によって、再び自分で自分の首を絞める構造に陥っています。
とりわけ地球温暖化は、これ以上の悪化を絶対に食い止めなければならない全人類の生存に関わる問題です。それにもかかわらず、自国の短期的な経済利益や政治的思惑を優先し、国際的な協調を拒む一部の国の姿勢は、世界中の人々の健康と命を脅かすものであり、断じて許されるものではありません。

結論:「人間の健康を中心に考えた社会」への原点回帰
医療の役割は、この暴走する社会構造や気候変動の荒波から、患者さんの心と身体を守る防壁(シェルター)になることです。しかし、個人の治療や対策だけでは限界があります。
技術の進歩に人間の身体を無理やり合わせるのではなく、「人間の健康を中心に据え、人間が健やかに生きるために技術や環境をどうコントロールするか」という原点に、社会全体、そして世界全体が立ち返るべき時が来ています。

投稿者 寺尾クリニカ | 記事URL

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