寺尾クリニカブログ

2026年8月 9日 日曜日

結核高蔓延国からの留学生と、置き去りにされた水際対策〜悪いのは学生でも学校でもなく、国の運用の遅れだ〜

私のクリニックには、毎年「結核の疑い」で日本語学校の学生さんがやってきます。今年(2026年)も入国して4カ月ほど経ったミャンマーからの学生さんが受診され、肺結核と診断されそのまま入院治療となりました。
発症日は明らかではありませんが、入国して4カ月の間、結核菌を排菌していた可能性はあります。それまでにどれだけの人と接触したかを考えると、市中感染のリスクに恐ろしさを感じずにはいられません。
しかし、ここで私たちが冷静に直視すべきなのは、「一体誰に責任があるのか」という問題です。

結論から申し上げます。夢や目標を持って日本にやってきた学生さん自身には何も罪はありません。そして、国の制度が機能していない以上、受け入れ側の日本語学校だけに責任を押し付けるのも間違っています。
一番の問題は、「結核高蔓延国からの入国前スクリーニング制度」を掲げながら、運用を遅らせている国の不作為にあります。



数字が示す、日本の結核問題のリアル

現在、世界には約100か国の結核高蔓延国が存在します。日本政府はそのうち、日本での患者発生数が突出している6カ国(フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、中国)を「入国前結核スクリーニング(JPETS)」の優先対象国に指定しました。
実際、厚生労働省の最新データ(2023年 結核登録者情報調査)を見ても、日本で新しく登録された外国生まれの結核患者数は以下の通り、まさにこの6カ国がトップを独占しています。

フィリピン:317人

ベトナム:272人

インドネシア:231人

ネパール:229人

ミャンマー:155人

中国:148人


さらに衝撃的なのは、日本国内における20代の結核患者のうち、実に84.8%が外国生まれという事実です。若者の結核問題は、実質的に「来日した留学生や技能実習生の感染問題」と同義になっています。
なぜ、水際に大きな「穴」が開いているのか
これほど明確な数字と危険性が分かっていながら、なぜ感染が防げないのでしょうか。 それは、国の入国前スクリーニング制度の運用が大幅に遅れているからです
現在、実際に現地でのスクリーニング運用が始まっているのはフィリピン、ネパール、ベトナムにとどまり、インドネシア・ミャンマー・中国に対しては「対象国に指定されながら未開始」のまま放置されています。
つまり、患者数上位に入るミャンマーなどからの渡航者は、入国前に検査を受ける義務すらなく、ノーチェックで日本に入国できてしまうという致命的な抜け穴が、今この瞬間も開いたままなのです。

新宿という街の構造と、現場の危機感

特に私が診療を行う新宿エリアは、これら結核高蔓延国からの日本語学校生が集中的に生活し、アルバイトなどを通じて地域社会と深く接する街です。狭い住環境での共同生活や慣れない生活による免疫力低下も重なり、発病リスクは高まります。
そうした環境で、今回のように「入国から4カ月経ってから判明する」という状態が放置されれば、他の学生も、周りの住民も、そして現場の医療機関も全員が感染リスクに晒される被害者になってしまいます。
早期発見のためには、入国直後や「半年ごと」の胸部レントゲン検査の徹底が不可欠ですが、それ以前に「国が一日も早く、ミャンマーやインドネシア、中国を含む全対象国での入国前スクリーニングを全面稼働させること」が最優先の課題です。

おわりに

臨床の最前線で患者さんを受け止める医師として訴えたいのは、来日した個人を排除したり責め立てたりすることではありません。
行政が自ら定めた制度の遅れを取り戻し、責任を持って水際対策を機能させること。それこそが、夢を持ってやってくる外国人の若者も、地域で暮らす人々も、双方が安心して過ごせる社会をつくる唯一の道です。
国の一刻も早い運用の全面開始と、実効性のある感染対策を強く求めます


投稿者 寺尾クリニカ

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